ホイリゲって何?
ホイリゲ(Heuriger)とは「今年の」を意味する「heuer」という単語が変化してできた言葉で、「今年のワイン(das heuriges Wein)」つまり新酒を意味する言葉です。そしてそれを飲ませるワイン専門の居酒屋も「ホイリゲ」と言います。つまり「ホイリゲ」には2つの意味があるのです。このサイトでは、後者の居酒屋の方を主に「ホイリゲ」と呼び紹介していきます。
さて「ホイリゲ」、難しい定義はさておき、結局のところ、葡萄栽培農家が家の軒先で自家製のワインを飲ませてくれる所です。日本的に考えると、小さな造り酒屋さんの隅に、ちょっとした肴も出してくれる飲み屋が併設されているようなものです。だからホイリゲに行くと、その農家のワインだけを味わえます。その農家のワインの味が分かります。つまりその地区のワインが分かるということです。
ホイリゲは葡萄栽培農家が軒先で営業しているような所ですから、当然町中にはありません。基本的に葡萄畑の傍にあります。郊外というか、田舎ですよね。でもウィーンって田舎に囲まれているのです。有名な「ウィーンの森」ですよね。「ウィーンの森」って、ウィーンを見下ろすカーレンベルグ(Kahlenberg)辺りだけを指す訳ではありません。ウィーン市内から市外まで、市街地を取り囲む広大な森林地帯を指すのです。だからウィーンの街中で「ウィーンの森は何処ですか?」と聞いても、答えが返ってこない場合があるのです。
余談はさておき、ホイリゲはこの広大なウィーンの森の中に点在しています。ホイリゲ街のようなものもありますし、単独でぽつんと営業していることもあります。ウィーン市内にもいくつかのホイリゲ地区があります。ウィーン市内から列車や車で30〜1時間程度のところにも、ホイリゲ村が点在しています。
ホイリゲの歴史は1784年にまでさかのぼります。あのマリア ・テレジアの息子で、マリー・アントワネットの兄弟でもある、ヨーゼフ2世がホイリゲの生みの親という訳です。一部のワイン販売人に独占されていた販売権を、葡萄農家にも開放したのです。ただし、「ウィーン郊外の一定の畑で取れた葡萄を使い、その葡萄からできた新酒のみを、自らの農家の軒先で飲ませたり販売してもよい。」というものでした。
現在でもウィーン市の条例では、ホイリゲはウィーン市境から10Km以内、営業も300日以内、勿論自家製ワインに限られています。新酒(ホイリゲ)と呼べるものは、葡萄が取れた年の聖マルティンの日(11月11日)に解禁し、翌年の大晦日までとなっています。
小規模なホイリゲではワインの量を調整して、夏季のみの営業にしたり、休業期間をもうけたりしています。ただし有名なホイリゲ村にはホイリゲが何軒も軒を連ねています。全部のホイリゲが休みということはまずないと思って大丈夫です。
ところが実際には、ヨーゼフ2世が販売許可例を出す以前、13世紀頃からホイリゲは存在していました。場所はウィーン市の南、テルメンレギオン(Thermenregion)とよばれる葡萄栽培地域で、ウィーンっ子にはソートバーン(S
dbahn)の愛称で親しまれています。現在もこの地域はホイリゲが多く、特に週末ともなるとグンポルスキルヒェン(Gumpoldskichen)やソース(Soo
)のホイリゲ街は、ハイキングやドライブも兼ねたウィーンっ子で賑わいます。
このテルメンレギオンの例を出すまでもなく、ホイリゲはウィーン市内だけに限られたものではありません。オーストリア国内のワインを生産している地域なら、どこにでもホイリゲは存在します。そこで自家製のワインを飲ませてくれます。このようなホイリゲの中には、ウィーン市の条例を尊重してブッシェンシャンク(Buschenschank)を使用している場合もあります。ただ決まりのようなものはないみたいで、ブッシェンシャンク○○の横に、ホイリゲ××が並んでいたりします。内容はまったく同じホイリゲです。
またオーストリア南部のシュタイヤーマルク(Steiermark)州でも、ウィーン同様ホイリゲならぬブッシェンシャンク(シュタイヤーマルク州では主にこう呼ぶ)が観光の目玉ともなっています。州都ブラーツ(Graz)からは、このブッシェンシャンクを訪ねるバスツアーもあるようです。
近年、オーストリアワインのクオリティが上がり、ワインの世界でもその実力が認められつつあります。それに従い、ヴィンテージにこだわらない荒削りなホイリゲ(新酒)を否定する動きがあるのも事実です。確かにオーストリアワインは美味しい。気候や土壌にも恵まれ、丁寧に造ればいいワインになります。しかしワイナリーという庶民には敷居の高いものを通らなくても、生産者と消費者が直に向き合えるホイリゲという制度は大切ではないでしょうか?
ホイリゲも工夫して、昔は「白・辛口」「白・甘口」「赤」ぐらいの品揃えで営業していましたが、現在は葡萄品種別に選ぶことができる店もあります。グラスも中ジョッキが多かったのですが、ワイングラスを用意している店も多くなりました。特に田舎のワイン産地のホイリゲはワイナリーが経営していることが多く、店の入口には自慢のワインのボトルを看板代わりに飾っています。ホイリゲ(新酒)が美味しかったら、ボトリングされた自慢のワインも購入してみてください。安く、よいワインを手に入れることができます。
Kino_Sanはワインの高級化にこだわるワイン通を、個人的にフランス病と呼んでいます。古いワインにはないフレッシュさを味わうことができ、気兼ねすることなく生産者と直に向き合うことができるホイリゲ。否定するには惜しいオーストリアの文化です。