財布の紐は堅く ウィンドウ・ショッピングの快楽
友人と飲みに行った時に(水を飲んだんじゃないよな)コールマルクト(Kohlmarkt)のユリウス・マインル(Julius Meinl)が話題になったことがある。彼は私とは違い音楽が好きで、実践もしている。セミプロのバリトンとしては関西でもかなり評価されている人物である。そんな彼だからウィーンに行った事もある。ウィーンに行った時は音楽鑑賞に忙しくて、ホイリゲへ行く暇もないそうだ。ホイリゲへ行くのに忙しくて、音楽鑑賞をする暇のない私とは、かなり違うテリトリーを持っているようである。それでも同じ街である。テリトリーが微妙に被るのも事実だ。
「グラーベン(Graben)の突き当たりにある、やたら高いスーパーじゃん。」
説明しながら思い出してしまった。そうなのだ。あの店は全ての品物が意味なく高いのである。なら、売れないよな。と思うのはウィーンの素人(?)である。かなり売れている。お土産のチョコレート等を買う観光客も多いが、午後遅くの買物時ともなると、店内は生鮮食料品を買う人でかなり混み合う。生鮮食料品を買っているぐらいだから、観光客ではない。地元の人達である。
ウィーンのショッピング・ストリートはケルントナー通り(K
rntner Stra
e)、グラーベン、コールマルクトの順に、王宮(ホフブルグ:Hofburg)に近くなっていくに従って高級になる。高級になるということは、売っている物の値段も高くなる。コールマルクトはウィーンで最も高級なショッピング ・ストリートだ。そこにあるユリウス・マインルが、スーパーとはいえそれなりのお値段の商品を揃えているのは当然のことである。
ところで、ウィーンの人達はその高いスーパーで皆が買物をしているのかというと、それはそれで違う。買物をしているのは、その価格でも納得している人達で、大方の庶民と呼ばれる人達は買ったりしない。大方の庶民と呼ばれる人達(つまりそこの価格に納得していない人達)は、コールマルクトを筆頭にグラーベンやケルントナー通りでさえ財布の紐を緩めたりしない。あくまでこの辺りは展示場、ウィンドウ・ショッピングを楽しむ場所である。
じゃぁ、何処で財布の紐を緩めるのか?
私はファヴォリーテン通り(Favoritenstra
e)だった。
新しい服がほしいと思ったら、ケルントナー通りやグラーベンでいろいろ見てくる。店内には殆ど入らない。まさにウィンドウ ・ショッピングである。お気に入りの服を見つけるか、流行を掴んだらファヴォリーテン通りに行く。そして同じ服、あるいは同じ雰囲気の服を見つける。価格はうまくいけば2〜3割りは安くなる。ただし、まったく同じ物が売っているとは限らないので、安くなる割合はかなり曖昧だ。安い気分になっているだけかもしれない。でも、同じチェーンの店もあるので、それなりの商品は揃う。
こう書くと、かなり辛気臭い生活のように思うかもしれないが、これはこれで意外と楽しかった。ケルントナー通りやグラーベンでのウィンドウ・ショッピングは優雅である。買う気はまったくないので、カリカリしたりしない。距離を置いて、冷静に物だけを見ることができる。しかもお洒落な街だ。見ている商品が高級なだけに、気分もちょっとセレブになれる。
ファヴォリーテン通りでは戦闘態勢だ。店の奥までガンガン入っていくし、商品も触り倒す。納得いくまで見て、触る。こっちは優雅にウィンドウ・ショッピングとはいかない。周りの人も似たような感じなので、やり易い。そう、ここはウィーンっ子御用達のご購入街なのである。
それで思い出したのだ。今でこそユリウス・マインルでいろいろ買物をするが、あの頃は買わなかったことを。スーパーなのでウィンドウ ・ショッピングだけでなく中に入ることもあったが、値段を見てその高さに感心していたことを。
つまり、今や私もすっかり観光客である。観光客とコールマルクトで日常品を買えるセレブ達に混じって、ユリウス・マインルで優雅に買物を楽しんでいる。ケルントナー通りで買物だってする。そして、財布の紐は緩みっぱなし、ウィンドウ ・ショッピングの快楽も遠い昔だ。ファヴォリーテン通りに行く事さえない。