行きつけのホイリゲを作る しかもグリンツィング(Grinzing)に
ホイリゲ(居酒屋)が好きになった。ホイリゲ(新酒)も好きになった。そして、オーストリアワインにはまった。そうなると、いろいろなワインが飲みたい。いろいろなホイリゲに行きたい。と言う訳で、根城をウィーンに移すことになった。
折角、花の都ウィーンに泊まるのなら、お洒落なホテルに泊まりたい。私はかねてから目を付けていたホテルを定宿と決めた。そこは、いつも行っているカフェの裏手にあったのだ。ウィーン旧市街のほぼ中心部なのに、値段も結構リーズナブルである。朝食も付いている。シングルでも広い。等、私を満足させる条件も整っていた。しかし、チェーンには入っていないので、直接予約するしかないところが、ちょっぴり不便だ。
さて、昼間はワインの村を飛び歩いている私、酒には強いが、夜には弱い。つまり、夜更かしできない。早寝、早起き人間なのだ。だから、ホテルには夜7時、どんなに遅くても9時には帰りたい。となると、夕食はウィーン市内で取るしかない。しかも、絶対、ホイリゲだ。
そこでガイドブックを見た。グリンツィングしか載っていなかった。だからグリンツィングにホイリゲを探しに行った。この選択は基本的に正解である。ウィーン市内とはいえ、ホイリゲのある所は結構不便、バスなど使う場合もある。その点、グリンツィングは市電1本で行ける。終点から終点なので、酔って乗り越すこともない。以外とガイドブックも役に立つ。
グリンツィングの評判はよく聞いていた。「ホイリゲもどきが多い。」「観光客相手。」「高い。」などなど。でも京都に住んでる私には、それって先斗町や祇園も同じ。そして、そんな場所にも、ひっそりと昔ながらの店はあるものだ。
グリンツィングに行ったのは午後の4時頃だ。田舎のホイリゲはこの時間から開いている。観光客が夕食を取るには早すぎる。まだ観光バスは押しかけていないだろう。そして、この時間からだと、7時にはホテルに帰れる。理想的時間帯だ。私はさっそくホイリゲを物色し始めた。
ホイリゲの選び方は慎重だ。まず、庭まで入り客層を見る。まずまずなら、奥のカウンターまで行って、料理も見る。大きいホイリゲも要注意。団体客が入る可能性が大きいからだ。グリンツィングとはいえ、この時間から開いているホイリゲも少ない。だいだい夕食時が開店時間なのだろう。そういうところは私のテリトリーではない。
その店は市電の駅のすぐ近くにあった。庭の席は少ない。客層はお年寄りが多く、観光客的人と半々といったところである。カウンターも見ないで、そこに決めてしまった。少なくとも団体客は来ないだろう。おやじに白ワインを注文する。民族衣装を着たおばさんが運んで来る。ワインは美味い、自家製かどうかなんて関係ない。美味ければ良い。
カウンターに料理を買いに行く。同じ年頃の女の子だ。彼女は英語もできる。この時はハムとパンだけを、極めてビジネスライクに注文したが、のちに英語と独語のチャンポンで世間話をすることになる。正確な年齢は分からないが、よく似た年頃であることは間違いない。
この店は料理がとにかく美味しかった。ウィーン風ハンバーグや、ハムのロースト、サラダ類、どれもいい。特にサワークラフト(キャベツの酢漬け)なんて、私の価値感を変えてしまった。かねてより、あんな不味いものを、ドイツ系の人々はよく食べるなぁと、不思議に思っていたのだ。ここのやつは不味くない。いや美味しい。意に反して大盛りにされたそれを、私はペロリと食べてしまったのだ。やっぱ、ローストしたハムの付け合せにはサワークラフトだよね。以来、口にはしていないが、私はそう思っている。
この店は3時に開店する。料理は作り置きだが、私が行く時間帯は出来たてだ。それもよかった。だから夕食は何時もここで取る。店の人も顔をすぐに覚えてくれた。いつの頃からか、おやじにあいさつして席に着くだけで、白ワインが出るようになった。私の後を、白ワインが着いて来る。私は知った顔の人(客)に挨拶しながら、席を探す。そんな感じの店になった。
最後におやじを見た時、ずいぶん年を取っていた。立っているのもきつそうだった。カウンターの彼女もすっかりおばさんだった。みんな年を取った。私も客も。そう、見かけなくなった顔もいる。
そして、店は変わってしまった。店の表は派手になり、若いお兄ちゃん達がワインを運んでいる。カウンターの女の子はまるで子供だ。料理も若干味が落ちた。でも私はそこにいる。少しお酒が応えるようになってきたので、白ワインとミネラルウォーターを注文する。自分の体調に合わせて、ワインとミネラルウォーターを調整して飲む為だ。カウンターの女の子は私の顔を覚えてくれている。お兄ちゃん達もやっと覚えてくれた。あいさつをすると、白ワインとミネラルウォーターが着いて来る。知った顔もさらに少なくなった。みんな年を取り過ぎたのだ。
シュランメル音楽の楽士さん達もいる。私が行くと、日本の歌を流してくれる。ちょっとしたエピソードがあって、私の顔を覚えてくれたからだ。
そう、私はここにいる。ワインの村を歩き、時々別の店に浮気しながら、そして何時かいなくなる。それまで、まだ時間はある。多分、たっぷりある。