葡萄畑の中にあるホイリゲ 原点に帰る

小さな町だった。地図を頼りに葡萄畑を探した。街並みが途絶えた所に、そのホイリゲはあった。葡萄畑に囲まれて、営業中のランプの光が眩しかった。
2006年夏、私は其処に帰った。グリンツィング(Grinzing)でもグンポルスキルヒェン(Gumpoldskichen)でもなく、ホイリゲ街もないその場所だ。ホイリゲは葡萄畑の横にあり、庭から作業している様子を見ることもできる。日曜日には町の人々が集まり、ゆっくりと食事を楽しむ、いわば町の集会所だ。
私はそんなホイリゲにばかり行っていた。それがホイリゲだと思っていた。だからウィーンの友人(オーストリア人)や、オーストリア通を自称する人達(日本人)と話しが合わなかった。どちらのホイリゲも正しい、ただ守備範囲が違うだけだ。
オーストリアに住んでいた時に私が行っていたようなホイリゲは、おそらくウィーンの人も行かない。というか知らない。ウィーンからはそう遠くないが、不便だし、そんなところにホイリゲがあるとも思わないだろう。少し遠出しても、グンポルスキルヒェン辺りがいいところである。
音楽はない。町の中心からは外れ、交通の便はよくない。勿論、観光客はいない(その町のいったい何を観光するのか?)。私が入っていくと皆が注目する。少し気が引ける。躊躇しながらも、私は席に付いて白ワインを注文する。カウンターで料理も購入する。食べ始めたら、もう誰も気にしない。追加のワインを注文する頃には店の人の緊張も解けている(いきなり外国人が入ってきたら、緊張するのが普通だ)。やがて食事を終えた私は、お店の人と隣の席の人にあいさつをして出て行く。入って来た時と同じようにひっそりと。

葡萄畑の脇道を歩いて行く 開店中を知らせる電球の光が眩しい

舗装もされていない道を歩きながら、葡萄畑を眺める。いい午後だ。それ以上に、いいホイリゲだった。居心地も悪くなかった。もう1度ホイリゲを見る。
「おかえり」
ふと、ランプの光がそう言った気がした。

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