もう若くはないんだ あるカフェの改装

小学校にでも置いていそうな白く塗られた木製の机と椅子を寄せ合って、先生らしき人を囲んで彼らはミーティングをしていた。恐らく、隣接する応用美術大学(Universitt fr angewandte Kunst Wien)の先生と生徒達だろう。一人で退屈な私は高い天井と大きな窓を交互に眺めている。ウィーンのカフェの天井は高いものだが、ここは群を抜いている。給仕に渡されたメニュー(シュパイセカルテ:Speisekarte)はテーブルの端に置いたままだ。注文は決まっている。今日の定食(メニュー:Men)だ。迷っているのは、ワインにするか水にするかである。
応用美術博物館(MAK:sterreichische Museum fr angewandte Kunst)ではよく一日遊ばせていただいた。美術の心得はまったくないが、機械メーカの技術者でインテリアに興味のある私にとって、この美術館はニーズに合っていた。トーネット(Thonet)の椅子をあらゆる角度から見たおし、膨大な食器のコレクションに「馬鹿じゃないか?」と毒つき、意味不明のネジとナットのアートに見とれ、時間はいくらあっても足りなかった。朝早く入館しても、出てくるのは夕方になる。飲まず食わずは我慢できない。という訳でカフェの出番である。
ここのカフェはそれ程混むわけでもないので、お昼ご飯時もゆっくりさせてもらった。高い天井の大きな空間が好きだったが、夏場はウィーン川(Wien Fuss)沿いの緑地帯に出されるテーブル席も気持ち良かった。定食は野菜主体で、しかも美味しく、お肉に飽きてる私の見方だ。だから何時もメニューは見ないで頼んだ。内容は知らなくても、期待が外れることはなかったからである。

気温はマイナスを下回ったままだ。ウィーン・ミッテ駅(Wien Mitte)CAT(City Air Terminal)で搭乗手続きを済ませた私はウィーン川を渡る。吐く息は白く、風は肌を刺す。今日は応用美術博物館には入らない。入ってしまったら帰りの飛行機には乗れない。カフェだけだ。カフェだけで十分なはずだ。
「こうきたか。」
カフェのドアの前で呟いた私は、想像以上のその空間のドアを開ける。
そこに存在したのは応用美術博物館らしい空間である。以前もらしさはあったが、方向性がまったく違がった。この空間なら、若くアーティスト気取りの応用美術大学の生徒も喜ぶのではないだろうか?私は天井を見上げ、大きな窓を見る。
「Melange Bitte!」
高い椅子に腰掛ける。カフェの内装が変わったぐらいでびびっていてはいけない。流れているのはユーロ・ポップ。BGM?そんなものがこのカフェに存在するとは。。。
運ばれてきたメランジェ(Melange)を口に運ぶ。各テーブルに灯された蝋燭の光が眩しい。
そして、高い天井と大きな窓を交互に眺めながら思う。

もう若くはないんだ。

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