ワインの味は変わらない
レオベレスドルフ(Leobersdorf)
2010.08.21
その駅は広大な空き地の中にあった。駅の周りに空き地ができたのか?空き地の真ん中に駅ができたのかは私にはよく分からない。(多分前者だろう。)
1989年夏、大きなスーツケースを持った私は友人と伴に列車を降りて、線路と線路の間のコンクリートの上に立っていた(それをホームと呼ぶのかもしれない)。線路の向こうに小さな建物(駅舎?)が見えたが、友人は気にも留めずに線路を横切り、その建物を無視して、線路脇の盛り土部分を登って行く(勿論、道ではない)。
そこには広大な空き地が広がっていた。建物も道路もない。いや、道路になりそうな部分は辛うじて分かる。車の轍が残っているからだ。
その空き地の向こうに、最近建ててみましたって感じの家々が見え、その中に私が滞在することになる友人の家もあった。
この時期のレオベレスドルフは、町の中心を流れる川の周りの家々の中に数軒のホイリゲが点在するだけの、小さなワインの町だった。だが、スーパー等もでき、新興住宅地としての機能は備えつつあった。私はこの町でほんの少しだけ暮らし、いい加減なドイツ語とワインの楽しみ方を覚えた。この町も含めたこの付近のホイリゲは素朴で飾り気がなく、どんな品種の葡萄でも激辛口に仕上げるという、ワイン評論家が知ったら眉をひそめかねない業を持っていた。だがそれは、さっぱり、淡麗、辛口が大好きな私の嗜好には合った。
それから20年余りが過ぎたある夏の終わり、私は一人でホームに立っていた。それは誰が見てもホーム以外の物には見えなかった。列車を降りた人達は、あの頃は薄暗くて歩くのも憚れた地下道へ降りて行く。その地下道も駅舎も、新しく、小奇麗に整備されていた。
駅の前のバス乗り場の雰囲気や大きさは変わらないが、あの頃道代わりに使っていた空き地には大きな集合住宅が幾つも建っていた。(そこは通り道ではないということだ。)
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ちゃんとした道を歩いて、町の中心部を目指す。歩きながら、私は笑い出してしまった。声を出して、ゲラゲラと笑う。
それは、もう、笑うしかなかった。
あの頃は空き地だった場所に家や集合住宅が建ち、その建物自体が時を経て町に馴染み、既に町の一部となっている。古い町と新興住宅地ではなく、大きなレオベレスドルフという町になってしまっていたのだ。20年も経ったのだ。あの頃からこの町はこうなるべく、淡々と準備をしていたのだ。
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ピカピカの商店街に見とれ、工事中の新しいショッピングセンターの案内に感心し、私は古い町の部分に足を踏み入れた。そこは少しだけ時間が止まっていた。川が流れ、小さな家が並んでいた。でも、その向こうには大きな集合住宅が見えた。
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町は変わってしまったのだ。
一軒のホイリゲに入る。席に着いてワインを注文する。
バンザイ!!
ご主人が持ってきたワインに、心の中で叫ぶ。
彼らはまだ、どんな品種の葡萄でも激辛口に仕上げるという業を捨ててはいなかった。
そのワインは舌が切れそうなぐらいシャープな辛口のNeuburger(ノイブルガー)だったのだ。
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