ホテル・カイザリン・エリーザベト
(Kaiserin Elisabeth)
2010.03.28
雪の多い年だった。
ホストファミリーをはじめ、知り合いが誰もウィーンに居ないことを知っていながら(オーストリア人の誰がクリスマス休暇と、それに続くニュー・イヤー休暇に仕事をするというのだ。)、私は一人、ウィーンで新しい年を迎えた。私にもウィーンに居たい、あるいは日本に居たくない、私なりの都合があったのだ。
滞在が長いので、できるだけいいホテルに泊まりたかった。でも、目をつけていたホテルは予約が取れず、カイザリン・エリーザベト(Kaiserin Elisabeth)という名前はなかなかウィーンらしいホテルに滞在することにした。
カイザリン・エリーザベトは4つ星だし、ガイドブックではそこそこの印象を受けていたのだが、部屋の間取りにはがっかりしてしまった。窓も小さく、そこから見えるのはホテルのロビーの屋根と、その僅かな空間に接する隣の建物だけという圧迫感、その部屋に辿り着くには曲がりくねった薄暗い廊下を奥まで進まなければならないという疎外感も、そのがっかり感を後押しした。
部屋は日本で出張に使っていた、1泊5,000円程度のビジネスホテルとあまり変わらなかった。廊下のように細長く、作り付けのクローゼットと、同じように壁にはめ込まれたベッド、ドレッサーも兼ねたワーキング・ディスク、デザインだけがビジネスホテルよりは少しだけお洒落だった。呆れたのはバス・ルームで、部屋より広いぐらい余裕があり、バスタブとトイレと洗面台が不似合いなぐらい間隔を開けて置かれていた。
ホテルにはレストランもなく、カフェもない。ロビーの奥に、夜はラウンジになる狭いスペースがあり、そこだけが唯一の遊びの空間だった。その夜ラウンジの屋根が半透明になっていて、上は狭い空間となっていた。ウィーンによくある中庭とは違う。どんなに狭い中庭でも、その空間の5倍はあるはずだ。私の部屋は、その狭い空間に面していた。
ホテルは階数はあるのだが、廊下は少なく、中心には古いスタイルのエレベータとそれを取り囲むように螺旋階段が設置されていた。殆どの部屋からエレベータが見えるが、私の部屋だけが螺旋階段の裏にあたり、裏部屋に続くような狭く、天井の低い廊下を通らなければならなかった。
外は雪が降り続いていた。市街地でも10cm以上積もってしまった。外を歩くには不適切な天気だった。でも、部屋に居るのもつらい。私はカフェとホイリゲを巡り、公園で何度か遭難した。(雪で行く手が分からなくなり、待機、止んでから自力下山ならぬ自力退園)
シルヴェスター(Silvester:大晦日)の屋台巡り、シュテファン広場(Stepansplatz)でのカウントダウン、明けて1日のおとそ代わりのホイリゲ(新酒)、全てご機嫌だったが、ホテルでは寛げなかった。
何年か過ぎた夏。珍しく、何時ものホテルが満室だった。
ぎりぎりまでキャンセル待ちをしたが駄目だった。ホテルの予約なしで飛行機に乗るのは不安だし、ウィーンに着いてからホテルを探すのでは時間が惜しい、しぶしぶカイザリン・エリーザベトに予約を入れた。日本語のブログ等ではよく取り上げられて評判もいいみたいだが(私は信じていない)、普通に空いていたので地元では不人気なのかとも思った。まぁ、あの狭さじゃ仕方ない。今回は夏だから、1日中外で遊べばいい。部屋が狭くても関係ない。こんな感じで、私はホテルに向かった。
期待に反して、その部屋は悪くなかった。何時ものホテルの部屋よりは狭いが、そこそこの広さの部屋の真ん中にベッドが置かれていた。(つまり、ベッドの回りに空間がるということだ。)バス・ルームはこのホテルで前に泊まった部屋ほど広くはないが、ホテルのバス・ルームとしては広い方だし、トイレも別だった。窓際のワーキング・ディスクの横には小さなソファも置かれている。そして何より、窓の外は通りに面していて、開放感に溢れていた。
「何、これ?」
私は絶句した。
このホテルは部屋によってかなり雰囲気が違うらしい。でも、料金は同じである。ブログ等で良い印象の感想を書いていた人はこのタイプの部屋に泊まったのだろう。この部屋なら料金も妥当に感じる。前に泊まった部屋は「何なんだ?」って感じだ。
でも、ホテル全体として余裕というか、ゆとりの空間がないのは事実である。夏でホテルには殆どいなかったとはいえ、カフェぐらいはあってもいいような気がした。ただ、リザーブ、ホテルが取れない時の控えとしては悪くはない。泊まりたいという人がいたら、いろいろなタイプの部屋があることは説明するが、泊まるのを止めるようには言わないだろう。


