月曜日の冒険 ウィーン市内のホイリゲ街
大切なことを忘れていた。家族経営のホイリゲならなおさらのこと、人には休みが必要だ。ホイリゲにも定休日が存在したのだ。そのグリンツィング(Grinzing)のホイリゲの定休日は月曜日だった。月曜日は別のホイリゲに行くしかない。グリンツィングの別のホイリゲに行ってもいいわけだが、ここは別のホイリゲ街に行くことにした。
そして私の冒険が始まった。大した冒険ではない。あまりにも小さな世界、ウィーン市内のホイリゲ街巡りだ。1990年代初め、月曜日の冒険が始まった。
ウィーン市内には、分け方にもよるが、16ヶ所程度のホイリゲ街がある。あくまで市内であるから、中心部からは30分程度で行ける。1時間はかからない。ただし市内の外れにある場合が多いので、地下鉄の駅すぐというわけにはいかない(だいたい、あの頃は地下鉄の路線も短く少なかった)。路面電車かバスが必要となる。
印象深いのは、通のホイリゲ街として名高いノイシュティフト・アム・ヴァルデ(Neustift am Walde)。でも、そこで私を待っていたのは観光バスと団体客だった。グリンツィングよりは葡萄畑が近くて、田舎のホイリゲに近い感じもしたが、客層はグリンツィングと変わらない。結局はウィーン市内、慌しさから逃げることはできない。
シュタマースドルフ(Stammersdorf)とて同じだ。確かに団体客は少ないが、路面電車の終点まで乗っていたのは、ホイリゲ目当てと思しき私も含めた観光客。目的地は同じだ。
以外だったのが、オーバーラー(Oberlaar)。テルマールバド(Thermalbad:温泉)もあり、バリバリの観光地のはずなのだ。ところが、温泉が有名すぎるせいか、あるいはウィーン市内のホイリゲ街は北(19区や21区)といったイメージが強すぎるせいか、意外と観光客だらけという感じではなく、拍子抜けしてしまった。10区に住んでいた時に馴染みだったのが、微妙に影響したのかもしれない。
そして私は1つの結論を得る。そこは慣れ親しんだテルメンレギオン(Thermenregion)のホイリゲ村とは違う。ホイリゲは村の社交場でもない。あくまでウィーン市内、地元の人達も多いが、観光の目玉でもある。そう、日本ではオーストリアワインやホイリゲは有名ではなく、それを目的で彼の地を訪れる人は少ないかもしれないが、ヨーロッパではそういう訳ではない。オーストリアはワイン産地としてそれなりに有名だし、ホイリゲは観光の目的にもなる。だからウィーン市内のホイリゲは、そんな観光客のためにも扉を開いている。グリンツィングであろうと、イェデルスドルフ(Jedlersdorf)であろうと、そこから観光を取り除くことができない。
そして、私の月曜日の冒険は終わり、私はグリンツィングに帰り着く。
潔く観光地化されていて、それでもちゃんとホイリゲしている街へ。
そして私は確信している。観光客の少ないホイリゲがいいホイリゲではない。寛げて、「美味しいワイン」が飲めるホイリゲがいいホイリゲなのだ。あるいは、この店のようなホイリゲが。