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風の中の駅 壁の中の街

2009.08.09

風はスロバキア(Slowakei)から吹いてくる。長い髪がその風に流されてしまう。
ふらつきながら降り立った駅は風の中だった。
乗ってきた列車がゆっくりと動き出す。街を見下ろしているということは、駅は高架の上に造られているようだ。髪を両手で抑えて、列車の通り過ぎていった空間を見る。
青くもなく、美しくもない、けれどもゆったりと流れて行くドナウ河(die Donau)が目の前に広がる。やはり、あの曲が似合う。

ハインブルグ   ハインブルグ

駅の高架を降りて、細い道を渡り、街へ歩く。道と言うより階段で、街を取り囲む壁に僅かに開けられた割れ目のような門を抜けていく。街は壁の中に存在していた。壁はオーストリアでも珍しいぐらい完全な形で街を取り囲んでいるはずだ。
門を入ると中央広場にそびえる教会が目に入る。中世そのままの路地のような狭い道を抜けて、教会の前の広場に立つ。街は決して小さくはない。スロバキア国境の辺境の地とはいえ、ウィーン(wien)からも遠く離れている訳でもなく、スロバキアの首都ブラチスラバ(Preßburg)も近い。なにより、昔ながらの交通の動脈であるドナウ河を従えている。ウィンドウに飾られている商品にも田舎にはないセンスが感じられる。

ハインブルグ   ハインブルグ

街はドナウ河を見降ろす小高い丘の中腹から麓に広がっている。丘の上には古い城跡があり、街を囲む壁は麓を底辺としたほぼ完全な台形に形作られている。街を貫く幹線道路の入口と出口には大きな門が造られている。でもそれは、近代的な自動車の走る道路の為の門ではないのだろう。恐らく、馬車の為の大きさがあるはずだ。その幹線道路に沿うように、残念ながら、と言うよりは当然ながら、街は壁の外へ溢れ出している。
広場から私は東へと歩き始める。門を抜け、壁沿いの道を歩き、路地を曲がる。出鱈目に歩いているようだが、この街の見どころはおさえている。インターネットから取出した、街の観光当局お勧めのコース通りに歩いているだけなのだ。
この街は見どころが多い。壁がほぼ完全な形で残っているように、中世からの建物も多い。ハイドン(Franz Joseph Haydn)が子供も頃に街の聖歌隊で歌っており、そのゆかりの場所もある。しかも、私はホイリゲも探さなければならない。出鱈目に歩くには時間が必要だ。ここは、一筆書きで主な見どころを辿れるお勧めコースに従うのが得策だ。ホイリゲは(流石にお勧めコースには含まれていない。)はそのコースを少しだけ離れればいい。

ハインブルグ   ハインブルグ

台形の上辺、街の一番高い所に立ち、街を見下ろす。といっても高台でもない、普通の道なので、そこから中心部へ延びる道から見下しているだけだ。大きな建物は中心部に少しあるだけで、後はこじんまりとした家並みが続く。道も広くないので、メルヘンチックといえなくもない。ただ、壁に囲まれている為か、ドナウ河を感じることはできない。河は街のすぐ外、台形の底辺の外を流れているのに、その気配さえない。そう言えば、丘の斜面ということもあるのだろうか、街の中を流れる小さな川もない。
ホイリゲは門を閉ざしたままだ。開店時間は夕方遅く、恐らくは通り過ぎるだけの観光客より、この街に住む人、あるいはこの街に滞在する人の為に存在しているのであろう。

ハインブルグ   ハインブルグ

再び、駅の高架に上がる。ドナウ河が見える。観光船がゆっくりと通り過ぎて行く。
風に流れる髪を抑えながら、私は一人で帰りの列車を待つ。

ハインブルグ   ハインブルグ