其処をホイリゲの墓場にはしない
2010.05.23
冷たい雨が降っていた。
雨は髪の毛を伝い、ブレーカーの隙間から、傘をささない私の心の奥に染込み、其処を冷たい物で満たしていった。
「どうしてこんなことに。。。」
路面電車の駅を降りて、ヒンメル通り(HimmelStrasse)をゆっくりと歩く、目的のホイリゲは営業していなかった。それは営業していないのか、すでに店を閉めてしまったのか分からない。付近にホイリゲらしい建物は見当たらない。
バスの走るファイラー通り(Feilergasse)を経てコーベンツル通り(Cobenzlgasse)に入る。
コーベンツル通りはホイリゲの多いグリンツィング(Grinzing)でも、特にホイリゲの密集した通りだ。夕暮れ時ともなると、営業中を知らせる電球の灯りが連なり、まるでそれに吸い寄せられるかのように、通りを歩いている人達は、何処かのホイリゲへと消えていった。その多くは観光客だが、中には気軽な格好をした地元民らしき人の姿もあった。
だが今は、「だった。」と表現した方が適切だろう。
多くのホイリゲが休業日にあたる月曜日とはいえ、電球が少ないのは点灯していないだけではない。そもそも電球がない。看板もない。ある場所では建物さえもない。
冷たい雨に混じって、熱いものが私の頬を伝う。
この夕暮れ時、一番人通りが多いはずの夕飯時に、人影も見えない通りで、私は何を思うべきなのだろうか?
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グリンツィング、其処はウィーンで一番の、いや、オーストリアで一番のホイリゲ街のはずだ。違う、そうでなければならない場所だ。様々な批判や中傷が囁かれるが、それは一番だからだ。だが今は、そんなものさえ囁かれない。
諦めた私はサント通り(Sandgasse)のホイリゲに入る。団体客が店の中央を占拠し、シュランメル音楽を聴いている。席は多く空いているが、このホイリゲは団体客専用と言ってもいい店だ。勝手に座っては店の人が怒るかもしれない。(以前にそうなった)私は係りの人に目配せする。彼女が示した席は片隅だが、それ程悪い席でもなかった。ワインを注文し、音楽に耳を傾ける。団体客が入っているために、店の人は忙しそうだ。料理を山盛りにした大きな皿が何度も私の横を通っていく。
残るのは団体客とホイリゲの残骸?
そう思い始めていた私に、係りの彼女が声をかける。
「楽しんでる?ワインのおかわりはいかが?」
それが、多分、私への答えだ。
一人で店に入った客への笑顔、それがこのホイリゲ街の、私の問いかけに対する答えだ。
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