ドイツ語(Deutsch)が話せると得? 相手に合わせても悪くはない

私は少しだけドイツ語が話せる。本当に少しだ。田舎のホイリゲに行くのに困らない程度と思ってもらえればいい。しかもかなり訛っている。ベルリン(Berlin)辺りだと、南部の田舎者と思われてしまうだろう。オーストリア(sterreich)で覚えたドイツ語である。ゲーテ・インスティトゥート(Goethe-Institut:ドイツ文化センターのドイツ語講座)に行っても、訛りだけは矯正できなかった。(正確にはしなかった。)
ところで私は、「あなたはドイツ語が話せるから得だね。」と、何回か言われたことがある。しかも外国人ばかりにである。正直、私は得していると感じた事はないのだが、第三者の目は違うのかもしれない。
初めて言われたのはプラハのレストランである。鉄のカーテンがなくなった翌年で、まだまだプラハにも社会主義時代のなごりが残っていた。観光客は多いがインフラ(ホテルやレストラン)が足りていない感じがしたし、人(ホテルなどの従業員)もついていけていない感じだった。

プラハのシンボル、プラハ城 プラハ市内を流れるヴルタヴァ川

そのレストランには一人で入った。だいたい一人でプラハに行ったのだ、連れがいるはずない。大きなテーブルに相席のような形で席を確保して、私は食事していた。同じテーブルの斜め向かいには品のいい老婦人が一人で座って食事をしていた。後で聞いたところでは、ポーランド生まれのオーストラリア人で、ようやく故郷に帰れたので、ついでにプラハも観光しているとのことだった。何故、こんな事を知っているかというと、彼女と話をする羽目に陥ってしまったからだ。迷惑な訳ではなかったが、彼女はウエイターの対応を私に愚痴ったのである。何故なら英語が通じず、注文がなかなか通らなかったからだ。私より前からいたのに、料理が出てくるのは私の方が早かった。私はビールを飲みながら(やっぱチェコではビールでしょ)、ゆっくり食事をしていたが、彼女は食後のコーヒーがほしかったようだ。
「みんな無視するのよ。英語が話せないの。困ったわ。でも、あなたはいいわね。ドイツ語でしょ。みんなドイツ語は話せるのよ。あなたの注文にはみんな大丈夫。大喜びでおかわりのビールを持ってくるわ。」
「そうですか?」
ということで、親切な私は通りかかったウエイターに、彼女のデザートとコーヒーを注文してあげた。確かにドイツ語だ。言われるまで全然意識していなかった。ここはプラハである。公用語はチェコ語。ソ連の支配のおかげで英語を勉強している人は少ない。でも、もとオーストリアだから、ドイツ語を話せる人は多い。メニューもチェコ語で読めなかったが、お勧め料理を注文して、ピルスナー・ビールを飲んでいたのだ。確かにウエイター達は最初から愛想がよかった。言葉が通じるからだとは以外な感じがした。得をしていたのかもしれない。

プラハの中心ヴァーツラフ広場、レストランもこの近くにあった プラハ城の一角にある黄金小路、カフカも住んでいた

飛行機の中でも何度か言われた。私は何時もドイツ語圏の航空会社を利用している。客室従業員もドイツ語圏の人が多い。当然、日本語よりはドイツ語が通じる。
隣に座ったのはデンマーク人だった。日系の自動車会社に勤めているので、日本に研修に行くためにその飛行機に乗ったらしい。同じエンジニアということもあり結構話がはずんだ。彼は英語が話せたので、そんなに困った様子も感じなかった。でも着陸前にポツリと言った。
「君はドイツ語が話せるから、客室乗務員はみんな君に愛想がいいよね。僕のことなんて相手にしてくれない。」
「そうですか?」
以外な感じがした。彼は感じもよく、英語も流暢で、客室乗務員に粗野に扱われている感じはしなかったからだ。そこに客室乗務員が通りかかる。食事等のサービスをしてくれた方だ。
「飲み物はいかが。もう着陸だから最後よ。」
ドイツ語で、確かに私に話しかけている。そこで思い出した。私は基本的に白ワインが好きなので、食前から白ワインを飲んでいた。なくなると、彼女は「白ワインだったわね。」とおかわりをついでくれた。食事中に通りかかったので、食後だけ赤ワインが1杯ほしいことを頼むと、忘れずにトレーを下げたあと、赤ワインを持ってきてくれた。かなり特別扱いだったかもしれない。その度に隣のデンマーク人は、自分の飲み物をリクエストしていた気がする。得をしていたわけだ。
でも、ウエイターでも客室乗務員でも、人は人、言葉が通じないよりは通じた方がやりやすいのは確かだろう。本来はそんなことで差をつけてはいけないのだが、相手の立場になると納得しないでもない。
しかし日本人は面白い。ドイツ語で客室乗務員と話していると、必ず陰口が聞こえてくる。
「あいつ、ドイツ語が話せると思って生意気だよな。日本人ばかりなんだから、あいつも日本語ではなせばいいんだよ。特別扱いしてもらいたいのさ。」
表現に若干の差はあるが、内容はだいたいこんな感じである。特別扱いしてもらうつもりはないが、たとえこちらが客でも、話せるのであれば相手の理解できる言葉で話してあげるのは、決して悪いことではないと思う。サービス業とはいえ、相手も人なのですから。

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